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2012/03/23

ナヴィゲーションする身体

 身体文化学ワークショップの講師を頼まれて奈良女子大に行った。教員をしているかつてのチームメイトに頼まれたからであって、決して女子大だからではない(しかし奈良女はいい大学だ。学食の昼食ビュッフェもうまかった)。
 オリエンテーリング競技者を題材に、ナヴィゲーションの認知過程についてしゃべったのだが、プロローグにクイックOの実践を取り入れた。オリエンテーリグ部員もいたが、方向の変化が大きいレッグがあると、うろうろしたり間違えたポイントにいってしまったりする。オリエンテーリングの経験がない参加者もいたが、オリエンテーリングの経験と成績は、中級者以下だとあまり関連がみられない。一般的な地図読みとは違うどのような認知過程があるのかというのも興味深いテーマだ。
 最近クイックOをやるときは、パンチ台の代わりにサッカー練習用のパイロンを使っている。もともとは手近なもので済ませようという魂胆から始めた。これが実はフィジカルにもテクニカルにもいい練習環境だということに気づいた。パイロンを触るルールにすると、ポイントで一々腰をかがめなければならない。これはフィジカルな負荷を高める。また腰をかがめて立ち上がることで、移動が切れるので、その瞬間に次のポイントへの方向を見失いやすい。どうすればいいかを考えることは、汎用性のあるナヴィゲーションスキル習得につながる。デモンストレーションをして見せる。ポイントで整置を切らさないために、地図でなく自分が回るのはいつも通りだが、あるポイントに到着する前に次のポイントへの脱出方向に目をむけていることに気づいた。これは意識してやっていたわけではなかったので、自分でもびっくりした。
 その後は、クイックOを踏まえつつナヴィゲーションの認知過程についてレクチャー。参加した学生さんも優秀で的確なコメントが返ってきたが、何より空間認知の研究をしている教員の「地図は実はナヴィゲーションにとって邪魔者なのではないか」というコメントにはinspiredされた。未知の空間内でのプランニングフェーズでは地図は間違いなく不可欠なはずだ。だが、クイックOでも体験できるように、移動のフェーズでは、時として地図情報、もっと正確に言えば地図情報を取り入れるときの地図と自分との関係が正確な移動方向の邪魔をする。そしてこれは地図という媒介との関わりの中では不可避に思える。だからこそオリエンティアは、常に整置をし、またトップ選手はポイントでの整置をできるだけ切らさない身体動作を行う。地図の中に入り込むイメージで地図を読み取ろうとすること、記号の柔軟な解釈と利用、環境のスキーマを利用して地図記号を具体的なイメージにすること、トップ選手がやっている地図読みのスキルは、邪魔者である地図を飼い慣らすスキルだと言い換えることができるかもしれない。今回のテーマである「ナヴィゲーションから複雑な環境における認知について何が語れるか」という視点からすれば、(危機管理)マニュアルをどう実践的なものにするかという、マニュアル永遠の課題への切り口になるかもしれない。
 今回のワークショップの準備を通して、久しぶりにナヴィゲーションの認知過程を考え直した。「地図は邪魔者だ」という視点を加えて再度整理しなおしてみたくなったし、それが社会の中での認知を語る有力な切り口にもなりえる。

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▲オリエンテーリング部の合宿で15年くらい前に訪れて以来の奈良女子大。正門にも古都らしい風格が感じられる。

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▲クイックOは、初心者への普及教材としてだけでなく、様々な気づきを与えてくれるツールである。

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