ハセツネ、当然の結果
十分な準備が出来ていないことは、百も承知だ。9月来の体調を考えたら走れるだけでも上出来だ。そう思う反面、50歳代の表彰台が決して非現実的なものではないことへの色気もない訳ではない。中途半端な気持ちで、当日の朝を迎えた。理由のないネガティブな気分が頭の中を渦巻いている。これをどうやって解きほぐしていこう?
10時ごろからぱらついていた雨も、スタート時には止んだ。予報は雨だが、雨量はそう多くはない。気温も高い。ウェアや装備を調えていると、少しづつレースへの気持ちは向いていく。
スタート後1時間は、走りきれるのだろうかと思う気持ちとの葛藤だった。それほど早いペースとも思えないのに、若干脳貧血気味で思考力は鈍っているが、一方で体はよく動く。ふと、「もしこれが最後のハセツネだったら」と考えてみた。当然悔いないレースをしようと最後まで努力する、たったそれだけのイメージトレーニングだったのに、その後はレースに集中することができた。
浅間峠の通過が3時間15分。ペースが遅かったことと、登りでの小股とすり足を心がけたせいで、三頭山の登りも、あっけなく終わった。月夜見で6時間30分。ベストタイムを出した2008年より10分ほど遅いだけだから、後半のダウンがなければベストタイムも狙えるかもしれない。
一方で、三頭山あたりから、胃がむかついてきた。食べ物どころが味のついたハイドレーションの水分を飲み込むのもやっと。ジェルなど酸味のつよい補給食が多かったからかもしれない。コンデンスミルクのチューブを買い忘れたのも失敗だ。月夜見ではまずはハイドレーションは真水にして、ボトルの方にポカリを入れてもらおう。
月夜見ではまだまだ元気だったし、前回はペースダウンした御前山の登りに今回の走りの成果が現れるかどうかを見るために、とにかく進んだ。のどの乾きはなかったが水はほとんど飲めなかった(後でみると、この2時間で200mlしか飲めていなかった。食料類も、ようやくジェリー1/2を押し込んだだけ。しかも途中で、あまりに胃がむかついて、胃液とジェリーを戻した。脱水、低血糖、いずれの可能性もあった。
大タワでリタイアすることを何度も考えた。たぶんゆっくり歩けば十分どころか13-14時間でゴールできるだろう。だが、そんな走り方でゴールすることには何の価値も見いだすことはできなかった。「明日人生が終わるとしたらどうするだろう?」そう自問してみた。答えはあまりにもあっさりしたものだった。「意義の感じられないレースをすぐに止めて、自分にしかできない仕事をすべきだ」。ゴールに向かえばハセツネ完走のささやかな達成感を得られるかもしれないが、自分にとって誘因にはならなかった。これは止めるべきだろう。
大タワの手前で斜面にもたれている選手がいた。脱力感を感じさせる姿勢が気になって声をかけると、佐藤光子さんだった。「低血糖?脳貧血?」彼女自身にもその答えは分からない。病的なものではないことだけを確認して、自分は大タワに向かった。ここで少し眠ってみれば、進むことができるかどうかが分かる。トイレの脇に座っていると、援助品を提供することができない役員が、「ここにブルーシートをおかせてね」と言って、おいてくれた。それに腰を下ろして休み、考えた。ほどなく佐藤さんがやってきて、一緒に座って、おしゃべりした。彼女は体調が回復せずほどなくリタイアを決意。その後僕は、彼女にもらった胃薬を飲んで様子をみたが、ハイドレーションの水を多めに飲んだ途端吐き気がして、全部戻した。リタイアが妥当だ。
リタイア者は、ストーブのあるテントに入って毛布をあてがわれるが、しばらく外で阿闍梨の女子たちを待った。僕がついてから30分くらいで、なおちゃんが元気にやってきた。僕の状況を話すと、「それはリタイアした方がいいですよ。暖かくしていてください」と優しい声をかけてくれた。それから20分もしないうちに、同じチームの妙ちゃんがやってきた。初出場とは思えない好タイムだ。授業時間が迫り、エントリーができなくなる危機を救ってくれた田島利佳には一言詫びたかったが、彼女が来る前に回収車で会場に向かった。
装備品
ザック:グレゴリーのルーファス。
水・食料:ハイドレーションに約半分に薄めたリンゴジュース1700ml、ボトルにアセロラドリンク350ml、カーボショッツ5つ、ジェリー1、ドライフルーツ(マンゴ・パイン)で計250kcal、梅あめ(10個、160kcal)、総菜パン1,バー2本、
その他:ファーストエイド(ばんそこ、テープ1/4、サバイバルシート、ミニナイフ)、ハンドライト、ヘッドライト、携帯電話(カメラ)、長袖山シャツ、アクティブシェル、ネックウォーマー
ウェア:下はハーフタイツ、上は半袖ウールシャツにベスト。靴はイノベイトのタロン212、スタッドが適度に減っていて、ちょうどよい。ハーフタイツ(3部丈は、太もものプッシュの時、皮膚が直接こすれるので、NG。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント