スノードニア国立公園
登山関係の研究費を獲得したので、イギリスの登山研修所にいくことにした。リスクの多い自然の中での登山では、リスク管理が重要なことは言うまでもない。もちろん日本でもそのような研修は行われているし、リスクの中で先鋭的な登山をしているクライマーはいくらでもいる。しかし異なる環境と文化の中で、登山の指導者たちはリスクをどう捉え、対処しているのだろうか。基本的に命を守る行為は同じだとしても、全く違うアプローチがあるのかもしれない。
同様のことはナヴィゲーションにも当てはまる。むしろ環境の特性に大きく依存するナヴィゲーションでは、環境による違いはより顕著なものになるはずだ。実践や研究を通して、ナヴィゲーションには共通の原理があることを見て取り、原理的な視点からナヴィゲーションを体系化してきたが、同時に環境に応じてナヴィゲーションの具体的なスキルが異なること、それに応じた適切な道具も異なることに気づいてきた。たとえば、イギリスで出版されたナヴィゲーションのテキストでは、特徴物としてしばしば「石垣」が登場する。産業革命に前後して、羊を放牧するために草原の丘が囲い込まれたのは、僕らにとっては歴史的事実だが、現在のイギリスでは、この時以後作られた囲い込みのための石垣が今でも残っており、しかも大縮尺の地図には記載されている。「これを使え」というのだ。これは単純な例に過ぎないが、他にも文化や環境に根ざしたナヴィゲーションの違いがあるかもしれない。諸外国でナヴィゲーションがどのように実践されているかを知り、原理をその実践と摺り合わせることは、いつか、英語で自分のナヴィゲーションスキルの体系をテキストにしてみたいと考える自分にとっては不可欠のステップである。今回のイギリス訪問の第二の目的はこの点だった。
訪問するイギリスの国立登山研修所はウェールズにある。簡単に言うとブリテン島の西側といってよい。それがロンドンからどの程度の距離か、調べる前はほとんど見当がつかなかったが、ロンドンからその入り口まで、特急を乗り継いで約3時間。東京から新潟の南よりまでといった感じだろう。イングランドはほとんどが草原の国だが、山がちのウェールズにはスノードニアという国立公園がある。登山研修所はその東側に位置している。
チェスターまでいき、そこからローカルに乗り換え、ウェールズに入る。さらに山間の谷に入る支線に乗り換え、ベトウ・ア・コードという街に着く。そこから「infrequent」なバスで約20分ほど。ベトウ・ア・コードには国立公園のビジターセンターもあり、地図なども購入できるので、そこで一泊することにした。降りてみると、いかにも山間の小リゾートという感じの駅で、駅前には、お土産から地図まで揃ったビジターセンターがある。そこで地図と今回の参考図書を手に入れる。ビジターセンターのスタッフは、いかにもイギリス的な老紳士。もちろん英語を話すのだが、スタッフ同士の話は全く聞き取れなかった。ウェールズ語なのだろう。イントネーションが北欧語の雰囲気を醸し出している。
この日は、小雨だったが、近くの森に軽くジョギング。ヒースの丘がとっても印象的。景観はスコットランド、地形はノルウェーに似ている。ブリテン島の西側から北を抜けて、そのまま延長するとスカンジナビア半島にぶつかる。ひょっとして地質的には同じ区分に属するのかな?
▲ベトウ・ア・コードの駅。ビクトリア調の瀟洒な駅。
▲ビジターセンターには地図が充実していた。
▲ヒースの丘が、10年以上前に訪れたスコットランドを思い起こさせる
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