「岳」の世界
全国遭難対策協議会に出席した。各県の遭難救助関係者や山岳関係者が集まるこの会では、危険をついて要救を助ける毎年救助隊の活躍が紹介されるが、今年は珍しく、遭難防止に地道に取り組む大津市消防本部の取り組みが紹介された。管内にある比良山系は、ロープウェーの廃業等もあり、近年道迷いが増えている。その中で、主要な登山道に約30分おきにピックアップポイントの看板をたて、何かあったら、そこまで搬送または移動してもらい、そこからヘリで救助するための仕組みである。今では携帯で救助のための連絡は簡単につくケースが多い。そしてGPSで位置も分かる。だがどこでもヘリでつり上げられる訳ではない。ピックアップポイントを作成することで、これまで最短の、通報から病院まで38分という移送が可能になったという。
その一方で、昨年2件の事故があったように、ヘリでの救助は救助側にも危険がつきまとう。それに加えての、本来の業務ではないピックアップポイントの設定を含めた登山道の整備。中には、「ピックアップポイントがあるので安心です」といった、趣旨を誤解しているとしか思えない「迷言」をはく要救もいるという。それでも現場に出向く背後に、「助けを求める人がいる限り、出動する」という消防としての使命感が伺える。S県県警の救助隊副隊長は、(通常は隊員の安全確保のために行わない24時間態勢の救助も)「場所が特定でき、時間的に切迫しているならやる」と明言する。隊員に何かあった時のくびは覚悟の上だ。
先の大津消防本部司令がプレゼンの中休みに指摘したように、映画「岳」にはあり得ないシーンが数多く出てくる(それを見つけるのも通としては楽しみの一つでもある)。しかし、一般の人から見たらありえないように思える救助隊の心性こそ、実はもっともリアルなものに思える。あの映画と漫画がぎりぎりのところでリアリティーを持っているのも、そう故なのだろう。
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