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2011/02/19

森が変わる

 富士山南麓でオリエンテーリング活動をしていると、1990年代半ばから森が変わり始めたことに気づく。一つはそのころの台風で杉檜の植林の大きな打撃を受けたことと関係して、ブナなど自然林に近い森づくりが行われるようになったこと。もう一つは、間伐が行われるようになったことだ。それまでの富士の森といえば、いわゆる「スーパーA」と呼ばれる下草の全くはえない、通行可能度抜群の林がもてはやされていた。しかし、この状態は林業的に見れば、林床に全く陽が入らない不健全な状態なのだ。それが放置されていたのは、間伐が経済的に割に合わないからなのだ。
 ところが1990年代後半から、この地域で間伐がかなり計画的に行われるようになった。1989年の全日本で使われた富士愛鷹は、東半分が高密度の林道で覆われ、間伐が入った。現在村山口でも林道作成と間伐は進行中である。村山口でのイベントを控えて、なぜだと思ってウェッブで見ていたら、高密度の林道と施業方法によって経済的にも引き合う間伐方法が採用されたということが分かった。
 18日、富士宮市役所で開かれた「富士山自然の森づくり」の講演会に故あって出かけた。台風による風倒木を契機に、自然林の復元を実際に行ってきたグループの顧問を務める渡辺さんの講演だった。渡辺さんは地元出身の元東大農学部の教授である。
 彼の講演を聴いて、それまで自分の中で断片的だった事実が、ようやく一つにまとまった。全ては彼の「仕業」だったのだ。不健全な状態の人工林を健全に戻すためには、高収益の間伐事業を行うことが必要である。彼はそのための方法論をまとめ、実行した。たとえば林道の勾配は6%に押さえる。また、地山の流水と路面の流水が連続しないように、林道の山側にL字の側溝を作る。それによって流水は地表面から速やかに地面にしみこむことになり、土壌の流亡も最小限に押さえられる。林道には普通まくはずの砂利もまかない。ところどころに大きな透水穴を掘り、そこから積極的に雨水を地下に入れる。こうすることで林道の維持費が90%も!削減できる。それによって、1haあたり10万円の利益を山主に還元することが可能になるという。
 全日本の地図調査をしながら、どうしてこんなに曲がりくねった林道が造られているのだろう、どうして、あちこちに2m深の穴があるのだろうと不思議に思っていたのだが、全ては渡辺さんの仕業だったのである。
 彼は退職金どころか奥さんの貯金までつぎ込み、施業用の重機を開発した。彼の試算によれば、この重機が2000台とそれに見合うオペレーターが居れば、日本全国で外材に対抗しうるコストで間伐が可能になる。この間伐を8-10年周期で繰り返し、最終的には1haあたり100本の木を残すことで、150年後には1本10万円、1haあたり1000万円の価値のある材の形成が可能になるという。精緻な計算と時間的なスケールのアンバランスに目眩がする。
 こうした施業によって、富士愛鷹の森は、見事なまでに一定の傾斜の林道網で覆われた反面、私たちオリエンティアにとっては、やっかいなやぶに覆われることになった。
 これまでのような、「とにかくまっすぐ進んでなんか見てコントロールに近づく」という大雑把なオリエンテーリングは、渡辺さんの森では通用しない。オリエンティアにとって、新たなチャレンジが富士の森に用意されつつあると考えることもできる。

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