開眼
ヤマケイの読図講座の三回目の取材に出かけた。この講座は、初心者であるヤマケイの編集部員の女性を生徒役にして読図を教えるというものだ。そもそもヤマケイ編集部に地図読み初心者がいるのかと思っていたが、生徒役の菊野さんは本当に初心者だった。それどころか、2度の取材&講習を終えても一向に上達する気配がなかった。僕にとっては、手取足取り教えても上達しない人がいるのだという大事なことに気づかせてくれた素晴らしい生徒だ。また、彼女が編集する関係上、記事の難しいところにはことごとくNGが出た。これも修行のつもりで乗り切る。 そして今回3回目。一応修了検定。今日のテーマは先読み。ルートの情報を先に読んでおくことで、ミスが減る。スタートで最初の区間を読んでもらうが、進歩が感じられない。 それでも、個々の地形はだいぶ読めるようになってきた。逆に読めすぎるので、プランでは細かいものに気を取られ過ぎてしまう。確実に分かる大きな特徴を捉えましょうね、と今日のレッスンポイントを伝える。 午前中の尾根を上がるのは、いわばウォームアップ。飯能市名栗の蕨山から下りる主尾根から分岐する大きな尾根上の廃道寸前の道を歩くのが今日のメインコース。正直、このコースは選択ミス。今の彼女の実力を遙かに超えている。記事にするのが大変だろう。案の定、彼女はこの分岐のずっと手前で、「あ、ここ分岐ですね」と言う。「さっき、分岐を捉えるために何を確認すれば良いっていいましたっけ?」「道の曲がりと三角点の後です」「そう、三角点の後ってことは、山頂から下るってことですよね。この先どうなってます?」「上がってます」いやはや。 分岐から先は、不安に違わない難関だった。分岐に立て看板こそあったものの、道はすぐになくなり、踏み跡だけになった。おまけに地形もはっきりしない。彼女には無理!そうは思ったものの、「ほら、不明瞭だけど尾根が伸びてますよね。コンパスで確認してくだりましょうね」とかいいながら、なんとか下らせる。 そんな彼女が豹変したのは、尾根を1/3ほどいった大きな鞍部を過ぎたあたりからだった。突然先読みが出来、自分の現在地を確実に把握できるようになったのだ。何よりも驚いたのは、チェックすべき地形(たとえばピークとか)に近づくと、彼女は何も言わないで、地図をポケットから出して、眺め、そのポイントに来た時には、そこがどこか、そして次に何をすべきかほとんど分かっているかのように振る舞ったことだ。ポイントの手前で地図が出せるってことは、その先の様子が地図から読み取れ、それを予期しながら進めているということだ。ずっと地図を見ているよりもっとすごい。だだっぴろいピークでも、「ここは方向がわかりにくいので、コンパスで確認」と自発的に口にし、その場でも正しい方向を選んで進んだ。別人が入れ替わったか、読図の精が乗り移ったかのような振舞だった。 学習者って、こんなにも劇的に変わるものなのだろうか?またしても彼女は素晴らしい経験を与えてくれた。
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