南アルプスにて(11)山の自己責任
山に入れば自己責任だとは言われる。ケガや事故にあっても自分のせいだよという意味だが、では山に入るとどのようなケガや事故のリスクがあるかと改めて問われると、抽象的に「落石」「滑落」くらいにしか答えられないのが普通だ。
実際に山を歩いてみると、その一つ一つを、具体的に実感できる。方斜面が崩落している場所なら、転落や滑落の危険があるし、岩がうきがちな岩場での急登なら、それに加えて落石の危険もある。地図が読めれば、道迷いの危険性もある。これらは地図からある程度予測できる場合もあるし、その場を通る時、「あ、ここはこんな危険があるな」と感じ、それに対して気分を引き締めることもある。
山に来る人は、遭難態様に上がる危険くらいは知識として知っているだろう。だが登山者は、どの程度場所場所に応じた具体的な危険を意識できているのだろうか?聖平小屋から南岳にあがる途中、夕涼みでもしているのではないかという日常着出歩いている中年?登山者に出会った。歩いている時刻と場所からして小屋泊は間違いないと思われるのに背負っているのもデイパックである。彼は僕(というより同行の利佳ちゃん)を見て、スピードを速めた。女性に追い越されるのが癪だと思わせるほどの反応だった。急登でしかも西斜面は崩落し、風が吹きさらしている中腹で、彼はとうとう息が切れて休憩をした。無理にスピードを速めるリスク、そんな場所で休憩を取るリスク、そもそもそんなかっこで山を歩くリスク、そんなことを彼はその場で感じられていたのだろうか?
自己責任とは、言葉の上で、「ケガしても自分のせいだよ」ということではない。山を歩く危険を具体的に思い浮かべることができ、それに対処することができ(そう、まさに英語のresponsibilityなのだ)る状態にこそ言えるタームなのだ。
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