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2009/05/18

初心者指導から分かること

 4月からヤマケイで始めた連載のために、第二回の取材ハイキングを行なった。西武秩父線の西吾野から吾野までのコースで、特に後半は、地図には道が描いていない。その道も、ある時は尾根に沿い、ある時は巻き道になる。さらには地図にない脇道も盛りだくさん。ということで、2回目を行なうには絶好のコースだ。  初回は地図記号すら怪しかった菊野さんだが、今回は尾根・谷は基本的には読める。「この先のルートはどんな特徴か?」と質問すると、「鞍部がある」とか「ピークがある」くらいの答えは返ってくる。このくらいのレベルが初級者が陥りやすいトラップを把握するのにちょうどよい。実際、随所で「ああそうそう!」というトラップにひっかかってくれた。  第一に気づいたのは、地形を要素としては把握できるがその定量的な把握ができないことだ。ピアジェに言わせれば位相幾何的空間認識の段階ということなのだろう。ピークや鞍部があるというのは分かる。ではその鞍部やピークはどのくらいの大きさか?これは等高線を読めば数値化できるので、数値に対するイメージがあれば、その大きさを想像できる(たとえば等高線3本なら約30mとして7階建ての建物くらいとか)はずだが、まずできない。これができないから、隠れたピークや鞍部にすぐひっかかる。  第二に、ルートの方向がどのように変化しているかということに対して驚くほど無頓着だ。これは別に彼女に限ったことではないだろう。あらぬ方に下って発見されるといった道迷いの事例の背後にも方向への無頓着さがあると思う。これは、部分的には遠くを見ることで解決できる。遠くを見れば方向の基準になる山頂や目印が見える。それによって、自分がその方向からどれくらい反れたかが感覚的に把握できるはずだし、間違えた尾根に入ったことなどもすぐ気づけるはずだ。  第三に、現在地把握のために自発的・連続的に特徴を利用できていない。これは指導者としても留意すべきことなのだが、指導場面では、分かりやすい目印が見え、解答が確実に出る場所で質問をする。ところが現実にはそういう場所ばかりではない。そこで現在地を把握するためには、今見ているものだけではなくて、自発的に途中で見たものを選びとって、それを現在地の把握に利用しなければならない。与えられた課題から自発的な課題設定とそのための準備への脱皮。初級者卒業の鍵は多分こんなところにあるのだろう。  もう一つの収穫は、こうした初心者の特徴にこれまで十分配慮してはこなかったことに自分自身気づけたことだ。伝説の授業名人、斉藤喜博の「授業入門」を読んだばかりだったからかもしれない。初心者がつまづくところにこそ、指導の重要なヒントがある。

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