アジア選手権を終えて(2)
あと約200枚の地図印刷が残っている段階で、残っている地図用紙がやけに少ないのに気づいた。印刷用紙はたっぷりある。そう聞いていたので、昼間のコースの最終決定や印刷状態のテストでも、地図用紙を惜しげもなく使ったのだ。それにしても残っている地図用紙が100枚というのは少なすぎる。明日がリレーなのだ。今晩中に地図が印刷できなければアウトである。
隣の資材部屋を漁ってみたが、地図用紙はなかった。KTO(韓国観光公社:韓国連盟の事務所がある)にあるのではないか、どこかに紛れているのではないか、様々な可能性を検討した。寺島氏が6月末に持ってきた1000枚は少なくとも残っているはずだが、万が一に備えて予備の印刷用紙を寺島氏がスーパーに買いに行くことにした。その間、印刷を担当していた僕と尾上さんは、まず各コース3枚ほどとってある予備地図の枚数を減らすことにした。9パターンあるMEではばかにならない数を減らせる。その後、資材部屋にA3の用紙やB4の用紙が残っているのが発見された。A3は半分に、B4からはA4が切り出せる。それで都合100枚以上が確保できた。「80日間世界一周」で、期限に間に合わせるためスピードを出しすぎて燃料がなくなってしまった蒸気船を動かし続けるため、最後の手段として主人公がその船を買い取って、甲板や舷の板まで全部燃やさせるシーンを思い出した。その時、地図作成の責任者である安さんが、車に積んであった資材の山から、300枚の地図の山を発見した。
▲見つかった印刷用紙の束
地図印刷作業の裏で、的場氏は淡々と成績処理の作業を続けていた。2日前のロングではスタートの打ち合わせが十分ではなかった。20分のはずがいつのまにか21分遅れでのスタートになっていた。翌日レスト日の夜、小山氏(young)はミドルの運営手順について、韓国の運営責任者の李さんに対して詰問調で、詳細な手順の確認を求めた。その成果もあって、ミドルのスタートは順調だった。ただ一つ不幸だったことは、エリートのスタートに配置されたスタートユニットの中に、ナンバーをテープで隠した一般ユニットが紛れ込んでいたのだ。ユニットを使った計時が初めての彼らだけに、それを間違えて使ったことを責めるのは酷だった。そのため、会場で成績が確定できなかったのだ。
フィニッシュの時刻はパンチングフィニッシュなので分かっている。Eカードに記録されたフィニッシュと読み取りの間の時間および読み取りのコンピュータに残された読み取り時刻からフィニッシュ時刻は確実に分かる。唯一の問題は、読み取りが二つのPCで行なわれ、その内部時計が8秒ずれていたことだった。的場氏は、ログから問題のEカードがどちらで読み取られたかを丹念に拾い出し、正しいフィニッシュ時刻を確定させた。正しく行なわれていれば、スタートユニットが作動していなくてもスタート時刻は確定できている。こうして無事男子の成績が確定し、高橋の3冠が決まった。作業終了は24時を回っていた。氏が当日中に成績を確定できなかったのは初めてのことで「記録」だった。
▲資材の山の中で仮眠をとる的場氏
その作業をしながら、せっかくの正式な地域選手権なのだから、国旗の掲揚と国家の演奏をしたいよねという話が持ち上がった。的場氏はここでも活躍した。「今時ネットが使えるんで、普通持ってないんですけどね」といって、電子百科事典の国の項目から、国歌のmp3ファイルを取り出した。なぜか持っていた式典用のファンファーレまで加えて、後はマイクとアンプさえあれば、立派に表彰式が行えることになった。翌日は韓国の運営者もその気になって、ボランティアの女の子たちに、旗揚げの練習をさせて、なんとか選手権らしいた表彰式が行なえた。実際に表彰台に上がって君が代を聴いた渡辺円香は、「今まで、なんか違和感を持ってましたけど、五輪選手とかの気持ちが分かったような気がします」と感想を語った。また既に現役は退いていたが、今回チーム1でリレーのアンカーとして見事にリードを守った宮本知江子は、「私が死んだ時には、(当日メダルの代わりに渡された)クリスタルの楯を棺桶に一緒に入れてほしい」と語ったという。
地図印刷は、ほぼ計算通りの3時1分に終わった。並行して行なっていたシーリングも4時前には終わった。昨晩同様1時間半は眠ることができる。韓国に来て以来、眠っているか食事をしている時間を除いたら一瞬たりとも無駄なことをせずに作業を続け、限界時刻ぴったりに作業を終える。仕事に美学を感じる瞬間である。
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