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2007/07/02

日本人の足を速くする

 このタイトルは、最近為末大が上梓した新書のタイトルである。
 為末大は、2001年と2005年の世界陸上で、日本人として初めてトラック種目でメダルをもたらしたアスリートである。それ以上に僕が彼に注目したのは、最近東京の小学校に一流の陸上選手を連れていき、児童と一緒に走ったりするイベントを開催した点にある。本書を読んでみて、彼は予想した以上にクレバーなアスリートであった。
 もともと100mの選手であった彼は、自分が早熟であり、いずれは同年代の選手たちに追い抜かれていくことを予感していた。世界ジュニア選手権では400mを走って4位に入賞したものの、自分がその後活躍できる可能性は低い。五輪に出られる確率が高い競技はなにか、それをジュニア世界選手権の最中に物色したのだという。そして見つけ出したのがハードルだった。選手たちのハードリングの技術レベルは高いとは思えず、つけいる余地がある。ハードルを練習したことがないのに、正しい直感が働いたところに彼のハードラーとしての非凡さとクレバーさがかいま見える。
 最近では500日間ハードルを跳ばず短距離のタイムを縮めることに専念するという自爆行為にも似た試みをしている。スピードは格段についたようだ。そのため、これまではハードル間の歩数を1歩増やしていた後半で、スピードが維持できるようになってしまい、踏切が合わないという副産物も生まれた。ならば、そのハードル間の歩数を一歩減らしてしまおう、そうすることによるタイム短縮は0.4秒にも及ぶという。彼の持ちタイムから0.4秒を引くと、北京でも金が見えてくるタイムなのだ。当然リスクはある。だがそのリスクなしには成功もありえない。
 彼の紹介する工夫と論理的なアプローチは、さらに上を目指す全てのアスリートの参考になるだろう。「自分が速くなる」ではなく「日本人の足を速くする」というタイトルもいい。
(為末大 2007 「日本人の足を速くする」新潮新書)

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