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2007年5月30日 (水)

子どもの読図を指導して

 5月29日、NHKの子ども番組「天才テレビ君Max」に出演した。レギュラー出演者の二人の女の子に地図読みを教えるという想定だった。そのうち一人ジーナは読図に自信があり、もう一人千帆は自信がない。まずはそれぞれにテストをするのだが、二人の行動の違いが際だっていて面白かった。
 スタート前に地図を何種類か並べ、二人に地図を選ばせるのだが、千帆はこの時点でイラストマップを選ぶ。分かりやすい感じがするが、細かい道が省略されていたり、デフォルメがあったり、分岐の位置関係も間違っている場所もある地図だ。一方、ジーナはちょっと迷って、台東区の1:7000地図を手にとる。ごちゃごちゃしている印象はあるが、周囲に何十とある寺は一つ一つ出ているし、道の太い細いもはっきり分かる。
 歩き出しすと、千帆は道を曲がり損ねたり、挙げ句の果ては反対方向に進み、目的地とは反対の方向に歩き出してしまう。そこで助け船を出して、目的地に向かわせる。一方のジーナは、そんなに急いで大丈夫かというペースで歩くが、ランドマークの確認は欠かさないし、「その先には太い道があるはず」なんていうプランニングもし、声を出して現在地の特徴を確認する。結局、千帆が41分、ジーナは8分だった。
 そこで、「村越先生」が、地図の読み方として、①縮尺の正確なしっかりした地図を選ぶこと、②今いる場所をいつでも確認して進むこと、③進む方向に地図を向け、地図と周りの向きを併せること、④目印をしっかり読み取ること、を教える。地図の選択から始まった、二人の行動の対比は、やらせではないかと思われるほど。最初から用意したポイントを言うのにぴったりだった。
 二番目の実験は圧巻だった。一回目でうまくいかなかった千帆に主導させて、時々ジーナがアドバイスするという設定で行なうが、千帆の上達ぶりは目を見張るばかりだった。自発的な整置(しかも、自分が回転し、地図が回転するのではなく、地図の方向をそのままにして自分が回る感じで整置を継続している!)。番地に頼った地図読みは、使った地図の性質上仕方ないが、一つ一つの曲がりとその特徴をしっかり読み取って確認する。ちょっとしたヒントで、地図読みはこんなにも向上するのかと、驚いた。
 千帆が飲み込みが早い子だということもあるだろうが、実はその片鱗は、助け船を出した第一回目の実験後半でも現れていた。整置や現在地の確認のことを簡単に指摘しただけだが、彼女は後半それを使いこなした。その様子は、彼女のスキルが僕から学んだものというよりも、地図との基本的関わり方のスキルはもともと彼女が持っていて、前半の失敗は、彼女がただそれを組織的に使うことができなかったためのように思われる。「自分は『方向音痴』」という知識面でのメタ認知は持っていても、その時々の状態の問題やそれに対処するモニタリングやコントロールのスキルが「地図が使えない」根本原因だと感じさせる。
 ジーナは特別に読図の経験がある訳ではないが、その「センス」には驚かされる。ある区間で、トータルで8番目の曲がり角を曲がる時にも、「途中まではくにゃくにゃだから、道がまっすぐになってから3番目なんだよ(実際途中までは「へび道路」と名付けられているような左右に蛇行した道である)」と言ったり、整置をして、地図の延長線上に進む方向を指さし確認したりと、地図との関わり方をよく心得ている。ジーナの様子を見ていると、一般的な情報を扱うスキルが地図を使う上でも重要な役割を果たしているように思える。

 アウトドアでの、1:7000のオリエンテーリング用地図を使ったチャレンジでは、さすがに二人とも苦戦した。まず等高線の説明を簡単にして、とにかく尾根と谷の区別、緩やかな斜面と急な斜面の区別をつけることを教えた。さらに山の中では方向を見失いやすいので、コンパスを使うこと、整置を忘れずにすることを強調した。
 整置をしようという姿勢は身に付いたようだが、地図上の進行方向と無関係に地図を持っているので、進行方向が横を向いてしまって、地図から現地への方向の移し替えがスムースにできない状況も少なくなかった。これは大人の初心者に整置を教える時にも、よくあることだ。
 道やその周囲が単純な前半は比較的地図と周囲の対応がよくできていたし、地図を見て「この先大きく曲がっているんだよ」などという先読みもできていた。まっすぐだが崖と急斜面で大変そうな道と、迂回していて平らそうな道という特徴を読み取ったルートチョイスもできた。しかし、道の方向が変わるつづら折りの岩場では、結果的に正しい道を選べたものの、地図にない道を無視したり、だいたいの方向を考えながら一番確からしい方向を選ぶといった高度な地図読みは難しかった。複雑な分岐で、正しい小径を整置によって選んだり、等高線との関係で正しい道を選ぶこと、いずれも困難を極めた。これらも、大人の初心者にオリエンテーリングを教えていても、頻発する。
 子どもと大人とを問わず、初級者の指導の問題は、個々のスキルというよりも、状況が複雑になってもそのスキルを確実に使うコントロール能力が重要なのではないかと思う。

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2007年5月14日 (月)

道迷い本改訂

 2001年に出版して、現在では9刷を重ねている「道迷い遭難を防ぐ最新読図術」の改訂版を出そうと数年前から思っていた。他の執筆が一段落付いた今春、本格的に取り組み始めた。元々改訂版は出したいと思っていた。出版以来、講習会をしたり、新たな読図の記事を書く機会にも恵まれているうちに、初心者にとってどんな点で読図が難しいのかが、より詳しく見えてきた。そこで得た成果を取り入れることで、もっと分かりやすい読図教本ができるだろうという思いも強くなってきた。
 全体的な構成や考え方についてはもちろん変わるところはないが、細かい部分や構成は手をつけたいところばかりになる。つたない文章、稚拙な構成等、読み返してみると、意気込みは感じるが、欠点も目に付く。20年前の自分の地図調査を見ているような恥ずかしい気分にもなる。
 一番大きく手直ししたのは、地図利用の基本に関する部分だが、とりわけ等高線の読み取りは、様々な地図利用実験を行なったり、初心者指導を行なう中で得た成果を盛り込んだ。初版を執筆当時は、尾根・谷の弁別など当たり前の課題で、それがナヴィゲーションに利用できる比率は低いと考えていた。平塚氏が「1:25000地形図の読み方」で展開したような尾根・谷の弁別に中心を置く指導には疑問を抱いていた。だが、実際に実験をしてみると、尾根・谷弁別課題と空中写真を使った模擬的現在地把握課題の相関はかなり高い。現在地把握に失敗した人の理由付けや行動からも、尾根・谷の弁別の失敗が現在地把握の失敗につながっていることも確認できた。確かに、多くの枝尾根の張り出しを見ることのできる日本の山では、尾根の配置だけでも、十分に現在地把握は可能なのだ。新版では、初心者が陥りやすい尾根・谷の弁別の具体例についても盛り込む予定だ。
 二番目に大きく手直ししているのは、現在地把握の章である。初版を書いている時には、「現在地把握とはどんな課題か」を理解することが初心者にとって最重要課題だと考え、原理面を強調した書き方になっていた。原理の把握は今でも重要なポイントだと思っているが、今読み返してみると、現実の動きの中でどう現在地把握をすべきかについて、もっと記述を割くべきだろうと思う。そのあたりのバランスと記述の順序は難しく、素材は同じなのに、全く違う仕上がりになってしまうかもしれない。
 これもなんだか、自分の調査したエリアにもう一度入るのに似ている。前に描いた時には万全を期した等高線も、再び調査すると徹底していじりたくなってしまうのだ。

 そんな週末を過ごしている傍ら、東京トレイルランでは、トランスジャパンも完走している高橋さんが、レース中心臓麻痺で亡くなった。尋常ではない身体能力の持ち主にも、悲劇は訪れる。一昨年(昨年?)の山岳耐久でも、心肺蘇生法によって一命を取り留めたランナーが出た。40-59歳のランニング中の突然死の死亡率は11.3/億人・時間なので、実はスポーツの中でそれほど高くはない(実数では年間30件くらい)。それに対して、登山の危険率は倍近い。トレイルランはまだ普及して時間が短いので、データの蓄積がないが、ランニングよりも危険率が高いように思う。実際どうなのか、気になるところである。

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