学力低下は錯覚である(神永正博著)を読んで
誰もがカルト的に信じている「学力低下」が錯覚でしかないことを、これでもかという資料と統計学者らしい分析で徹底的に論破した本である。この本の結論によれば学力低下は「そう見えるだけで、実態を表していない」。たとえば、「分数のできない大学生」の根拠として挙げられる分数計算の正答率が78%だという話も、実はそれは5問全問正答の学生が78%というだけで、しかも、そのうち一問はかなり複雑な括弧が入った計算であり、正答率が85%程度である。そのことを勘案すると、残り4問の分数計算の一問あたりの正答率は0.78/0.85の4乗根で、98%となる。普通に計算問題をやったら100題に2題くらい間違えることはあるのではないか、という具合である。まあ、PISAショックなどと言われながら、順位や点数みたら日本は決して悪くないと学生には話していたが、これだけのデータを示されると圧倒的な説得力がある。
しかし淡々と学力問題に対して冷静な分析を試みる著者が、「本物の理工系人間は不滅である」という下りでは、途端に「巨人軍は永遠に不滅です!」みたいになってしまう点だ。「理工系人間はあまり変わらないのではないかと思っている」という論述の後には、天才的ともいうべき工学者の逸話が二人分出てくる。こんな特異なケースを持ち出してもちっとも実証になっていないではないか!実はそんな冷静さとカルティックな部分の共存がこの本の魅力なのではないかと思う。
(本書は東京農工大学の守先生のDOHCによって紹介されたものを読みました)。
神永正博 2008 「学力低下は錯覚である」森北出版
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